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院長コラム
<28>スポーツと慢性外傷性脳症
サッカーのヘディング
2025年も半分過ぎましたね。来年は3月にワールドベースボールクラシック(WBC)、6月にFIFAサッカーワールドカップがあり、日本代表のチームを応援するためにテレビにくぎ付けになりそうです。
サッカーについて述べますと、近年 子供のヘディング練習はゴムボールで行うことが主流になっています。
米国や英国では11-12歳以下はそもそもヘディングが禁止というルールに変わっています。
これは、革の厚い、重たいボールを何度も何度もヘディングすることが脳によくないとエビデンスが強固になったからです。
特に小児期はダメージが大きいと考えられているからでしょう。
では大人ならいいのか?
そういうわけではないようです。
モハメド・アリ
脳に良くないだろうなぁと思う一般的なスポーツといえば、やはりボクシングでしょうか。
実際に頭を打たなくても、相手のパンチがあごをかすめるだけで、脳挫傷や急性硬膜下血腫など死に至らしめるダメージになりえます。頭蓋骨内で脳が揺れることで傷つくのですが、回転加速度が強いと損傷しやすいと言われています。
1996年のアトランタ五輪での開会式。
聖火リレーの最後に点火したのは、ボクシングの英雄であるモハメド・アリでした。
ボクシングに精通していない私でも、伝説のモハメド・アリと当時最強のマイク・タイソンくらいは知っていましたし、モハメド・アリは確かアントニオ猪木とボクシング対プロレスの異種格闘技戦を行ってましたよね?内容はしょっぱかったにせよ、とにかく話題になったことは覚えています。
技術、実績、社会的影響などトータルで考えると、モハメド・アリは今でもミスターボクシングであり、第一人者だと考えられます。
そのアリが聖火台で点火する時の映像ですが、覚えている人は覚えていると思います。手が震えてコントロールできない状態でした。
彼はパーキンソン症候群を患っていたために、手が震えていた(振戦)のです。
ボクシングのせいでパーキンソン症候群になったのでしょうか?
彼が発症したのは42歳の時です。
だいぶ若い時に発症しているな、という印象です。
米国でもやはり、長年反復されてきた頭部外傷に伴うパーキンソニズムという見方が強いようです。
ボクサーの全員がそうなるわけではないでしょうが、一定以上の期間で脳に衝撃が何度も何度も加えられると、脳が損傷したり萎縮したり変性して、パーキンソンや認知症などになりやすいといわれています。
慢性外傷性脳症(CTE/Chronic Traumatic Encephalopathy)
この、長年反復して頭部が揺れるような衝撃を受け続けることで、脳が傷ついて萎縮したり変性したりすることを 慢性外傷性脳症(CTE)と呼びます。
認知症、パーキンソン病、運動ニューロン病(ALS筋萎縮性側索硬化症)などのリスクがいわれています。
ボクシング以外で報告があがるのが、アメリカンフットボール、ラグビー、アイスホッケー、サッカーのヘディングです。
学会で伺った話では、当初アメフト協会(NFL)は選手の脳損傷の調査に非協力的だったといわれていました。
アメフトは、米国では最も人気のスポーツですからね。はっきり言って圧倒的な一位の人気スポーツです。人気でいえばその次にバスケ、野球、アイスホッケー、サッカーでしたか。
その後、アメフト協会が協力することになったようで、NFLで活躍した選手が後年亡くなった際に脳の解剖を受けて、111例中110例(99%)にCTEと診断できる所見がありました。脳内に異常なタウたんぱく質の沈着を認めたわけです。
この発表を受けてプロ選手になるのを拒否したり、早期引退をしたり、そういう例があいつぎました。
アメフトの競技人口も5万人ほど減少したといわれています。
ただ、それでもそういった事実を白昼の元にさらして議論する姿勢はさすがと思います。
ちなみに日本の大相撲には、そういうエビデンスを調べるという発想が全くないらしいです。
コンタクトスポーツの全てがリスキーというより、現役選手生活の長さ、脳を揺らす頻度、回復休息の適切度、そのほかの遺伝的要因、これらを複合して考えるべきということになっています。
ただ、それでも5年以上こういった競技を行うプロ選手は、通常より認知症になりやすいという覚悟を持つ必要があるのでしょう。
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下関の英雄といえば高杉晋作ですね。上が功山寺、下が東行庵での晋作像です。
この人が長生きしていたら、その後の日本はどうなってたでしょうかね?やっぱり大久保と喧嘩して下野して暴発してたかな・・・