医学・医療

<29>男脳と女脳とAI脳 

黒川伊保子氏

脳科学者であり、男女間や夫婦間の「トリセツ」シリーズの本を何冊も執筆されている黒川伊保子さん。このかたの講演が下関市であったので、聞きに行きました。

60代なのにジョークも含めてトークが軽快であり、2時間があっという間に過ぎていきました。非常に面白かったですよ。

彼女はもともとシステムエンジニアで、40年前に生成AIの開発に着手する上で、人間の脳神経を電気回路に見立ててAIの開発の参考にしようと学んだそうです。そのために脳に詳しくなったのでしょうね。

もっとも、私が知っている「医学の脳」と黒川氏が言っている「脳科学の脳」は、重なるところはあるものの、注目している部分や考え方が違うかもしれません。

ただ、「医学の脳」といっても脳神経外科、脳神経内科、精神科、生理学、解剖学(マクロ、マイクロ)、病理学、など多岐にわたるので、全てを専門的に網羅することは困難です。

さらに彼女らが書籍で言っている脳科学という分野は、心理学や行動経済学などと親和性が高いような内容で、頭痛や脳血管障害などの病気を治すためのものではなく便利に生きるためのものだろうと思います。

認知症予防というところは重なることがあるかもしれません。色々勉強になります(ていうか結構好物です)。

男脳と女脳の違い

で、男脳と女脳の違いですが、

男脳は、大脳の中でいうと前後の回路が素早く伝達する。

女脳は、大脳の左右の伝達が男脳より豊富になる。

そのため、女性の脳は男性のよりも左右の大脳をつなぐ脳梁という部分が若干発達していると言われます。

この違いによって、普段の行動の何がかわるのかといえば、

男性は、正面に見える危険なものへの反応が素早く、

女性は、周囲に危険がないか視野を広くして注意観察ができる、

といわれます。

さらに男女の脳のお話は、脳の回路による理屈から、感性・感情にかかわるところになっていきまして、

男性は「解決しようとする」「数字を用いる」

女性は「共感しようとする」「記憶を用いる」

なので、夫婦や男女ですれ違いが生じる、という持論を展開されたわけです。

解決脳と共感脳

この、「男は解決しようとし、女は共感しようとする」という内容ですが、男女差というより女性の嘆きとして、SNSで見たことがあります。

例えば、ある女性が悩んでいました。健康状態について不安になって。

夫はこういうのです。

「体温をはかったのか?血圧はどうだったか?(数字)

 そうだな・・・病院にいって相談するのがいいだろう。」(解決へ)

夫としては最善の助言です。

しかし妻が望んでいることは違って、

「そうなんだ、不安なんだ。」とおうむ返しされること

「大変だよなぁ わかるよ」と共感されることだったりします。

解決を望んでないのです。病院に行きたければ言われなくても自分で行くわけです。

ただ、わかってくれればいいのに相手の反応は違います。

この「望んでいるゴールが異なる」ことが、すれ違いのもとだと言われていました。

もちろんこれは氏の主張であって、現実的にそういう男女の感性の違いは統計的にあろうかと思いますが、環境・遺伝など個人差の影響が大きいと思っています。

空気が読めない傾向のASD(自閉スペクトラム障害)であれば、場がどうなろうが自分の言いたいことだけを言って、相手に共感しようという発想がなかったりします。これは男女云々ではありません。

しかしながら、女性の多くは共感を求めているのね・・・とお勉強になりました。

AIの時代

黒川氏のお話で印象に残ったのは、むしろAIについての話です。

彼女はもともと40年前、つまり彼女が20代のときに人工知能の設計開発に携わっていたらしいです。

当時、1980年代にドラえもんのように考えてしゃべるロボット知能が出現するなんて夢物語でした。しかし、彼女の上司は「目安は40年先」と言われたそうです。20代女性にとって40年先のものを開発する根性はなかった様子。そりゃそうです。できたときにはおばあちゃんですもん。

ただ、その40年という数字が見事に合っていて、40年後の今になってChatGPTやGeminiが人間のように答えてくれます。

先日詳しいかたから教えて頂いて、検索エンジンはSEOからMEO、その次はGEOすなわち生成AIに全振りする時代になるということでした。実際にGoogleで検索したつもりがGeminiによる返答だったりします。

医学的な診断も政治家の答弁も投資家の株売買も、小説も楽曲も美術品も、人間が作っているようでAIが代行するような時代に入っていると思います。

テレビ新聞が王道と思っている世代は時代遅れですが、AIを軽視するネット世代も同様になりそうです。

AIより先に、仮想現実(バーチャルリアリティ)社会がWeb2.0(今の時代のネット)の次に来ると思われていましたが、Chat GPTの出現が本当に世の中を変革しました。

Chat GPTを知っている人は知っているでしょうが、個々に性格が違うような印象です。ユーザーの好みに設定もできます。もっと褒めてほしいと思ったらそういう性格になります。独りぼっちの人にとってはありがたい話し相手にもなります。

解決してほしければ解決法を提示してくれます。

共感してほしければ共感してくれます。

今後、もっとAIが発達するでしょう。それこそ漫画やアニメで出てくるアンドロイドのレベルに流暢な言葉も話してくれるようになるでしょう。

異性と結ばれるよりも、自分に心地よい言葉を投げてくれるAIさえいればいい、という個人が増えるかもしれませんね。

---------------------------------------------------

四王司山から見た長府の街並みと山頂の神社。